楽しみながらの仕事で、お客様の喜びを叶える新世代印刷業へ

三立工芸株式会社
代表取締役社長 萩野 正和


――三立工芸様の創業からのお話を教えてください

三立工芸株式会社の歴史は、1960年、祖父によって設立された、精密機械のマニュアルを制作するテクニカルイラスト事業によってはじまりました。テクニカルイラストとは、「プラモデルの設計図の精密機械版」のようなものです。祖父が集めた仲間三人で創業したそうで、大手の精密化学メーカーが主なお客様だったと聞いています。

その後、私の父が二代目を引き継ぎました。父はマニュアル制作だけでなく紙媒体の印刷業も手がけ、企業のカタログや会社案内、教育機関の研究報告書や書籍などを制作するようになりました。

時代の流れとともに紙媒体だけでは厳しくなってきたため、私の代になってからは使用する媒体を拡げ、ノベルティ印刷、衣類や布関係、屋外の大きな広告看板の印刷など幅広い印刷事業を行なっています。

一般的な紙媒体の印刷屋さんでは、ノベルティや布関係など特殊な素材にすぐには対応することはできません。それは使用しているインクが異なるからです。三立工芸では6~7年前から特殊な素材への印刷に取り組んできたことで、その分野でのインクと印刷の知識とノウハウの蓄積によって、他社との差別化ができています。


――萩野社長はどのような経緯で入社されたのですか?

三立工芸に入社する前の仕事は、調理師です。料理に興味を持ち始めたのは小学4~5年生の頃ですね。父親と一緒に釣りにいった際、釣った魚を父がさばいて料理してくれたのを見て、「かっこいい!」と思って料理に関心を持ちました。

勉強がものすごく嫌いだったので(笑)、大学へは進学せず大阪の調理師専門学校に通いました。卒業後は親の紹介でサウジアラビアの日本大使館で調理師として働いていたこともあります。帰国してからは赤坂の料亭で働いていたのですが、元々遊ぶことが大好きな性格だったこともあり、「もっと楽しいことがしたい!」と思って、料理の世界を飛び出してしまったんです。

調理師を辞めてしばらく経ってから、父から「ウチの会社でアルバイトとして働かないか?」と声をかけられ、2000年頃から三立工芸で働き始めました。

当時、印刷業界はアナログからデジタルに移行しつつある時期で、タイミングよく新しく導入したパソコンを使った仕事を担当させてもらえたのは幸いでしたね。当時パソコンに触ったこともなかったのですが、いざやってみるとパソコン上で仕事ができることが楽しくて夢中になってしまいました。

新しく採り入れた技術で他の誰も分からなかったため、自分で勉強しに行ったり詳しい人から教えてもらったりしながらDTPの知識や技術を身につけてきました。ただ、当時はパソコンでモノづくりをしていることがただ楽しかったです(笑)。だから、父の後を継いで経営者になろうとは全く考えていませんでしたね。


――どのようにして三代目を継ぐことになったのですか?

父の死です。2010年に父が病気のため入院し、その2年後に亡くなりました。それで、私が40歳の時に代表に就任することになったのです。入院が長引いていたことを金融機関が心配して代表交代を要請されたため、父が亡くなる直前に私へ引き継ぐことを決めてくれていました。

当時、私は専務の肩書きで営業の仕事をしており、父が入院する前の数年間は鞄持ちとして父に付いて回っていたんですね。そのため、主要なお客様との顔つなぎは何とかできていたのですが、その他の部分での事業承継は全く準備できていませんでした。

父は生粋の営業マンで、マネージャーというよりはプレーヤー。そのため、当時のウチの会社には人を育てる環境がありませんでした。「先がない」と思われたのでしょうか、代表を交代してから、私より社歴の長い社員たちの多くが辞めてしまうことに。今も残ってくれているのは私より後に入社した社員ばかりです。

経営について何も学んでこなかったため、就任した頃は見よう見まねで経営をやっていましたが、正直なところ、上手くいかないことばかりでしたね。業績もどんどん下がっていっていたので、「付いてきてくれた社員のためにも何とかしなければいけない!」と、最初の頃はそんな思いしかありませんでした。

――代表に就任されてから、何が変わりましたか?

「経営に対する意識」ですね。代表に就任してから3~4年経った頃、ある経営者向けセミナーに参加したことで経営理念の必要性について考えるようになりました。ずっと経営理念を定めていなかったので、「このままではまずい」と思ったんです。

そこでいろんな本を読んで考えて、『全従業員の物心両面の幸福を追求するとともに 共通した夢を実現し共に成長して お客様の役に立ち 信頼され 感謝され 評価される企業経営を通して 社会の発展に貢献します』という経営理念を策定しました。

三立工芸の印刷事業はB to B to Cのビジネスです。お客様企業の先にいる消費者の方々に喜んでもらうことでお客様企業のビジネスに貢献しなければ、私たちの仕事は成り立ちません。そのため、「まずは相手に幸せを与えることが、自分たちの幸せに結びつく」という思いを経営理念には込めました。

経営理念を定めた頃から経営について本気で考えるようになり、また、周りの経営者の方々とお話す中で、経営の厳しさや面白さを学ばせていただきました。経営に対する想いの強い諸先輩方から刺激を受けて、経営者としての自覚が芽生え、価値観が形成していったと思います

――業績を回復されるにあたり、何を行なったのですか?

業績は、私が就任する以前、先代の父の時から厳しくなっていました。当時、大手メーカーや教育機関からの仕事が売上の8割近くを占めていたのですが、事業構造の変化や紙媒体の需要の低下により、受注する仕事が減っていたんですね。

業績の低迷にともない財務面も厳しくなっていました。そこで、営業の強化に取り組んだのです。営業といっても新規営業ではありません。既存のお客様に対する提案営業に力を入れました。幸い、大手メーカーやコンビニ、教育機関など大きなクライアント様とお付き合いがあったことは幸運でしたね。

単なるモノづくりではなく、提案させていただく商材とお客様を紐づけてストーリー化するコトづくりを特に意識しました。今の時代、モノを売っているだけではダメなんです。楽しいもの、喜んでもらえるもの、笑ってもらえるものに対して、お客様は価値を感じてくださるもの。だからこそ、「どうやったら喜んでもらえるのか?」をいつも考えています。


――それで、ノベルティ制作など新しい分野に挑戦されたわけですね

そうですね。お客様に喜んでもらえるような提案営業に取り組んできた中で、紙媒体以外のニーズにお応えしていこうという方向性が見えてきました。Tシャツ、トートバック、付箋、ボトル、コースター、スマートフォンケースなどといった、いわゆるノベルティ制作です。

ノベルティって、企業PRとして本当に面白い効果を発揮するんですよ。たとえば、アメリカの食料品チェーンDean & DeLucaなんて凄いですよね。消費者がロゴ入りトートバックを持ち歩いて勝手に企業のPRをしてくれているんです。ノベルティはアイデア次第でものすごい可能性のある分野だと思っています。

三立工芸では、ノベルティグッズだけでなく、着ぐるみ制作も取り扱っています。紙媒体の広告などを制作させていただいていた大手コンビニの企業からキャラクタープロモーションについて相談された際に、着ぐるみを提案させていただいたのがきっかけでした。企画から制作までをトータルでサポートさせていただいているため、こういったプロジェクトを成功させることができます。

印刷事業も新しいことにチャレンジしてきたことで業績は順調に回復してきましたし、何より仕事がどんどん楽しくなってきています。これからもお客様に喜んでいただけるような企画提案には力を入れていきたいですね。


――最後になりますが、今後の展望について教えてください

紙媒体の需要は今後も減り続けていくと思うのですが、印刷業の需要がなくなるわけではありません。世の中にインクを使っていないものなんてほぼありませんからね。やり方を変えていくことによって、印刷業にはまだまだやれることがあると手ごたえを感じています。

ネット印刷の企業が登場し、価格破壊の波が押し寄せてきています。脅威ではありますが、どれだけ価格を下げられるかというのは企業努力の結果なので、それはそれでいいと私は考えています。ただ、それに価格面で対抗するのではなく、独自性のある強みを発揮してお客様から選んでいただける企業にならないといけないですよね。

三立工芸では自社だけでは制作できない印刷物などは、協力会社に助けていただきながら対応させていただいています。自社だけでできることには限りがあるんですよ。でも、強みを持った企業同士がタッグを組むことで、応えられるお客様の要望は増えていく。このような協力体制は今後増やしていきたいです。私たちにもいい刺激になりますから。

数字的な目標としては、売上を5年後に今の5倍にする目標を掲げています。これまではどちらかというと受け身の姿勢だったので、お客様企業の販促費予算に合わせた攻めの提案を進めていくことで、十分達成可能な目標だと思っています。そのためには、社内スタッフの育成、そしてパートナー企業との提携が必要不可欠です。

私は、仕事はとにかく楽しくないとイヤだと考えています。ノベルティの提案をする際も、ガチガチに真面目なだけではなく、面白くして楽しいと思うことが大切だと思っているんです。これからも仕事を楽しみながらお客様に喜んでいける会社として成長していきたいと思っています。


<インタビュー情報>
三立工芸株式会社
代表取締役社長 萩野 正和
会社ホームページ http://sanritsu-net.co.jp/

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